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怪我に強い体を作る 「ハムストリング傷害予防へのヒント」 -骨盤の安定性欠如との関係から-
スポーツ競技では、ハムストリングの傷害が多く見られます。そしてその原因もただ1つだけではなく、いろいろな要因が含まれます。これまで一般的にはハムストリングの傷害後、安静にしてそれから、徐々にストレッチや筋力をつけるためのあらゆるエクササイズを行います。私自身、アイソメトリック、コンセントリックトレーニング、エクセントリックトレーニング、そしてハイスピードでのトレーニングなど、いろいろな方法でアプローチしましたが、すべてがすべて傷害予防・リハビリに役立つとはいえませんでした。 そこで、今回は単にハムストリングのストレッチやエクササイズのバリエーションを紹介するのではなく、少し違った面からなぜハムストリングに傷害が起きるかということから見ていきたいと思います。ここでは、骨盤の不安定性がどのようにハムストリングに影響してくるかについて説明し、その後にそれを防ぐための基本的なエクササイズを紹介していきます。 まず、骨盤の安定性(前傾・後傾)について説明する際に重要なのが、length-tension relationshipです。Length-tension relationshipとは、筋肉には、効率的に力が発揮できる最適な長さがあるということです。つまり、伸びすぎたり、縮みすぎたりした状態からでは、効率的に力が発揮できないということです。そして、下に挙げる骨盤を前傾させる筋肉群と後傾させる筋肉群のバランスが、矢状面における骨盤の安定性に大きく関係してきます。 (A) 骨盤の前傾:大腿四頭筋、腸腰筋、大腿筋膜張筋、腸骨筋、縫工筋 (B) 骨盤の後傾:ハムストリング、下腹部の筋肉 これらの筋肉群が、過度に緊張したり、働きすぎたり(オーバーアクティブ)することによって骨盤のニュートラルなポジションから、前傾もしくは、後傾ポジションに移動します。このような状態においては、それぞれの筋肉の最適なlength-tension relationshipが崩れ、筋肉が効率的に働くことができなくなります。
そして、日常生活で座ったり、猫背になるような姿勢などから骨盤を前傾させる筋肉、特に腸腰筋が硬くなることが多くあり、普段から骨盤が前傾状態にある選手を多く見ます(短距離走などのスプリンターや黒人アスリートにも多く見られます)。そして、骨盤前部にある腸腰筋が縮まった状態であるのに対して、後部にあるハムストリングは伸びた状態になります。 そして、骨盤の後傾またはニュートラルの状態に保つ上で重要な働きをするのが下腹部の筋肉群ですが、骨盤が前傾することによってこれらの筋肉が「OFF」の状態になり、体幹部の安定性が失われてしまいます。そしてこの状態で、ハムストリングに傷害を負い、さらにハムストリングを繰り返しストレッチしようとすることで、逆効果となります。ハムストリングは、股関節の伸展において、大殿筋を2次的にサポートしますが、骨盤の理想的なポジション、つまり安定した土台が失われ、それをカバー(代償)するために、股関節の伸展をサポートするだけではなく、骨盤を安定させるという普段はやらなくて済むはずの役割をしなくてはいけなくなります。これが、ハムストリングに余分な負担をかけることになり、慢性的な肉離れの傷害につながる場合があります。 ここでは、腸腰筋などの筋肉が硬くなることによって、骨盤が前傾姿勢に傾くといいましたが、その原因として、体幹部を安定させるための腹筋が弱くなり、そのために腸腰筋が過度な働きをすることになるということがあります。そのため、骨盤の位置、股関節の屈曲筋群の柔軟性、そしてハムストリングの柔軟性を簡単なテストで調べた上で、以下に紹介するトレーニングの順序で行う必要があります。 テスト: 1.スタンディング・ウォールテスト:骨盤の前傾テスト。壁から15cmぐらいのところにかかとを置き、壁に背を向けて頭の後ろ、肩甲骨、そしてお尻が壁につくように立ちます。このときに下腰部と壁の間にできるスペースが、4cm以上である場合は、骨盤が前傾姿勢にあるといえます。
2.トーマステスト:骨盤を前傾させる筋肉、大腿四頭筋や腸腰筋の柔軟性を調べるためのテストです。テーブルに仰向けになり、写真のように片足がテーブルの端からぶら下がり、逆の膝を両手でかかえ、胸まで引っ張るような姿勢をとります。このとき腰部はテーブルから浮かないようにします。伸びているほうの太ももが、写真のようにテーブルにそのままついていれば股関節の屈曲筋群の柔軟性には問題がありません。下腰部が浮いてしまう場合、または太ももがテーブルから浮き、外側に動くようであれば、股関節の屈曲筋の柔軟性が欠如しているといえます。
3.ハムストリングの柔軟性のテスト:選手はテーブルに仰向けに寝て、つま先を常に上に上げた状態にします。床に下ろした膝の下と、下腰部の下に骨盤が後傾しないようにタオルを置き、骨盤をニュートラルの姿勢に保ちます。そこから膝を曲げずに、片足をできるだけ高く上げ、一番高いところで静止します。このときの股関節の角度が80゜-90゜であれば理想的だといえます。
上の3つのテストで、1のウォールテストでやや骨盤が前傾気味、2のトーマステストで股関節の屈曲筋群の柔軟性の欠如、そして3のハムストリングのテストで柔軟性に問題がなかったとします。この場合、ハムストリングに硬さを感じるからといって、されにハムストリングをストレッチすることは、すでに伸びきっているハムストリングをさらにストレッチしようとすることになり、逆効果になります。ますは骨盤の前傾をできるだけニュートラルの位置に戻すことを優先して行います。そのために、次のような優先順序でプログラムを組んでいきます。 トレーニングプラン 1.骨盤を前傾状態に動かす筋肉群、つまり大腿四頭筋、腸腰筋、大腿筋膜張筋、腸骨筋、縫工筋などのストレッチ多くの大腿四頭筋のストレッチでは、骨盤が前傾状態で行われる(写真1,2)ので、ここでは骨盤がニュートラルまたは後傾状態で股関節の屈曲筋群をストレッチするようにします。ストレッチする逆側の膝を抱えて、胸に近づけていくことによって、骨盤の前傾を最小限に抑えます。
シングルレッグブリッジ:ここでは、膝を胸に付けていくことで、骨盤の前傾を防ぎ、その状態でブリッジを行うことで、殿筋に刺激を与えます。これによって、殿筋と反対に位置する腸腰筋・大腿四頭筋をリラックスさせる(緩める)ことができます。そして、その後に下のような、股関節の屈曲筋のストレッチを行います。下の写真では、すべて骨盤が後傾させた状態でストレッチを行っています。またトーマステストの状態で、ストレッチを行うこともできます。
2.体幹部を安定させるためのトレーニング:以前に「トレーニングガイド」で紹介され他エクササイズを参照してください。また、体幹部のニュートラルの姿勢で正しく股関節を動かすエクササイズも行います。 3.3面でのハムストリング、殿筋の強化:ハムストリングは、ただ単に股関節や膝の矢状面(前後)だけで働くのではなく、前額面(左右)、水平面(回転)でも安定・稼動させなくてはいけません。そして、トレーニングでもただ単にハムストリングのマシーンを使うだけでなく、それを考慮したドリルも行うようにしなければいけません。以前「トレーニングガイド」で紹介した、ハムストリングの傷害予防プログラムを参照してください。また以前紹介した殿筋のアクティベーションエクササイズも参照してください。 |















